三島由紀夫とは ●今朝の日経コラム・春秋に、清張が三島を「嫌ったことは甚だし」かったという話が出ていた清張は三島の自決について「『才能が枯渇したから』と断じた」という

そこで思い出したのが橋本治の「『三島由紀夫』とはなんだったのか」(新潮文庫)
この本で橋本は、三島が清張のことを「拒絶」していたと書いている


中央公論社が「日本の文学」という全集に清張の一巻を入れることを編集員だった三島が「絶対にだめ!」と厳しく拒否したのだという
あれほど嫌いだった太宰治を全集に入れることは認めたのに、である


●橋本はこれを三島が清張に対する「劣等感」(橋本はこの言葉を使っているわけではないが…)をいだいていたのではないかと推定している


金閣寺」「青の時代」「宴のあと」など三島は一時期、「現実の事件を題材」にしていた


清張もまた「現実の事件を題材」にしており、出発点は同じである


●しかし、清張が「真実はこうだ」と展開するのに対して、三島は「現実の事件を逆立ちさせて完全に『自分の世界』を幻出させてしまう作家」なのだと橋本はいう


三島の側から見れば、清張は「大人の小説」であり、自分の小説は「子供のようなこじつけ小説」に見えてしまうのではないか、というわけだ


橋本は、フィクションを描き続ける三島の中に「原初の不安」があるのではないか、と見ている


●清張は三島を「嫌った」、三島は清張を「拒絶した


そして、私は、清張、三島いずれもが好きなのである


これからも両者のベクトルの違いを楽しみながら読んでいきたいと思う


●(以下引用)………………………………………………………………

春秋(4/13)
 松本清張が純文学作家、中でも三島由紀夫を嫌ったことは甚だしく、割腹自殺も「才能が枯渇したから」と断じた。『追憶の作家たち』(宮田毬栄著)のそんなくだりを読むと、清張の純文学嫌悪は文学観よりも、エリートたちへの反発に根ざすようにも思える。

▼殺人のぬれぎぬを着た兄の弁護を頼みに、九州から東京まで来た若い女の懇願をエリート弁護士は「弁護料の高い僕にお頼みになる必要はない」と断る。女は弁護士に深い恨みを抱き、やがて……という復讐譚(ふくしゅうたん)『霧の旗』では、清張は、日本の司法を、エリートが構成し支配する世界と見、反感をあらわにしている。

▼司法支援センター、愛称法テラスと呼ぶ組織が今週、発足した。「民事刑事を問わず、法的な紛争の解決に必要な情報やサービスをあまねく国民に提供する窓口」を目指し、地方裁判所がある50都市に地方事務所を置き、東京にコールセンターを設け、全国からの相談電話をたらい回しにならぬようさばく計画だ。

▼『霧の旗』で清張が描いたほどでなくても、今でも司法は普通の人が近づくには敷居が高い。その敷居を低くするのが法テラスの旗印だが、それが霧のごとく消えてしまわないよう、10月の業務開始に向け、支援センターを支える法曹界や各地の自治体は、準備をしっかり固めてもらいたい。