知るを楽しむ ●詩人の吉増剛造による「私のこだわり人物伝 柳田國男」が今日からNHK教育の番組「知るを楽しむ」の3月分として始まった

吉増は柳田の生まれ故郷である兵庫県・辻川を訪ね、そこに柳田民俗学の原点があると感じたという


この地で柳田の小さな心が芽生え、彼の「感受性のアンテナ」が鋭く研ぎ澄まされていったのである


●大家族がひしめき合って暮らした生家を柳田は「日本一小さな家」と呼んだ


そこで、大人たちの「生」の秘密を垣間見た柳田が「口を閉ざして生きていく」という術(すべ)を培っていったという吉増の指摘は卓見だ


すべてをさらけ出すのではなく、独特の含みを持った柳田の文体は、小林秀雄が言うようにそれを理解することなくして、柳田を本当に理解したことにはならないのだと思う


●神隠しに遭いやすい性質を持っていた、と自ら語る柳田は、この故郷で「別の世界との通路」を見つけ、「動物たちとの関わりを結ぶ通路」を見つけた


そうした発見が何度も繰り返し書かれ、柳田の民俗学が出来上がっていったのだという


民俗学は、「言葉の積み重ね」だと、つくづく思う


●柳田國男は、吉増の表現を借りれば「文学とか心理学などと一味違う命の端っこの手ざわりに近いようなものを持っていた稀有な人」だった


吉増はそこに柳田の「詩人の魂」を見た


現代の詩人が、日本民俗学の碩学に「こだわる」理由がそこにある


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●吉増の語りは、繊細で丁寧、時に柳田の文章を情感をこめて朗読していた

頭の中に出来上がった詩的宇宙をやさしく紡ぎ出してくれるような感じで、好感を持てた


●吉増が38年前、NHKラジオで聞き、感動したという柳田の講演が番組の中で流された

初めて聞いた柳田の肉声はごく普通の年寄りが話しているという感じで、もう少し重厚な雰囲気を想像していた私には意外だった