ルパンの消息 ●「ルパンの消息」は横山秀夫がまだ上毛新聞の記者だった34歳の時、書かれたものだ

横山はこの作品で平成3年の第9回サントリーミステリー大賞佳作に選ばれるが、刊行されることなく、フロッピーディスクで眠り続けていたという


光文社のカッパノベルからようやく発刊されたのが、昨年(平成18年)5月、発表から15年の歳月を経ていた


●実は、この小説を読み始めた時、登場人物の会話の品のなさに閉口した


特に主人公となるツッパリ高校生は、ジュニア小説に出てくるようなズッコケ3人組みたいで、とんでもない本を読み始めてしまった、と後悔した


しかし、高校生たちが女性教師殺人事件に巻き込まれてから、彼らは、にわかに活気づいて、嘘っぽいところがなくなり、ミステリーらしくなってきた


●それは、事件から15年後の時効完成当日、警察サイドのあわただしい動きが緊迫感を与え、作品がより深みを増したからだと思う


とりわけ、現役の新聞記者だった横山らしく、溝呂木を始めデカたちの人間像は迫真に満ちていた


しかも二重、三重に張られた伏線があとからじわじわっと効果をあげる


●最後、事件の「真犯人」と溝呂木との時効完成ラスト20分間の攻防は、ドラマティックで、思わずうなってしまった


その犯行の真の動機は「空虚な思いを埋めるため」に「時効の時報を聞く快感」にあったと溝呂木が「真犯人」に突きつけるところには、思わず身震いした


謎の美人婦警の正体も、もしかしたらあの女の子かな、とうすうす勘づいてはいたが、そのエンディングのもって行き方は、まさにお見事であった


●横山は「読み手の心に『G』がかかる小説を書き続けたい」と著者の言葉に書いているが、この作品は、私の心に十二分に「G」がかかった


それは、この作品が単なるミステリーを超えた本格的な人間心理のドラマになっているからだ


好きだった女のために「人生そのものを捧げた」という、この作品の主人公のひとり「橘」という人間の「純粋」に、私は静かな感動すら覚えたほどだ


この作品の完成度は、高い